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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)592号 判決 1981年2月27日

原告 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 上原悟

被告 甲野一郎

右訴訟代理人弁護士 加藤康夫

主文

1  別紙目録記載の土地(別紙図面A、B、C、D、Aの各点を直線で結んだ部分)が原告の所有であることを確認する。

2  被告は原告に対し、別紙図面A、Dの各点を直線で結ぶ線上に設置してあるブロック塀を収去して、同図面A、B、E、D、Aの各点を直線で結んだ部分の土地を明渡せ。

3  原告のその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一申立

一  原告

1  主文第一項同旨

2  被告は原告に対し、別紙図面A、D、Eの各点を直線で結ぶ線上に設置してあるブロック塀を収去して、同図面A、B、C、D、Aの各点を直線で結んだ部分の土地を明渡せ。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  第2項につき、仮執行の宣言

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求の原因

一  別紙目録記載の土地(以下、本件土地という。)は、もと東京都の所有であったが、訴外甲野花子は、昭和三七年九月二二日東京都から右土地を買受け、これを昭和四八年三月一日原告に対し、金一七〇万円で売り渡した。

二  本件土地の範囲は、別紙図面A、B、C、D、Aの各点を直線で囲んだ部分である。

三  被告は、別紙図面A、D、Eの各点を直線で結ぶ直線上にブロック塀を設置している。

四  被告は、本件土地の所有権が原告に存することを争っている。

五  よって、原告は被告に対し、本件土地(別紙図面A、B、C、D、Aを順次直線で結んだ部分の土地)が原告の所有であることの確認及び同図面A、D、Eの各点を直線で結ぶ線上に存するブロック塀を収去して、前記土地を明渡すことを求める。

第三請求の原因に対する認否と仮定抗弁

一  請求の原因第一項のうち、本件土地がもと東京都の所有であったことは認めるが、その余は否認する。被告が妻である訴外花子の名義をもって払下げを受けたものである。仮にそうでないとしても、本件土地は被告と訴外花子の共有に属するものである。

同第二ないし四項は認める。

二1  被告は、昭和三二年一二月以降、本件土地を平穏、公然に所有の意思をもって占有してきたから、昭和五二年一二月の経過をもって時効により所有権を取得した。

仮にそうでないとしても、訴外花子が所有権移転登記を経由した昭和三七年一〇月八日以降、所有の意思をもって、平穏、公然に本件土地の占有を継続し、占有のはじめに善意、無過失であったから、遅くとも昭和四八年一〇月七日の経過をもって時効により所有権を取得した。

2  被告は、本件土地に隣接して新宿区○町×番の×宅地二五一・四一平方メートル、同町×番×宅地四四五・八八平方メートル、同町×番×宅地二九二・五九平方メートルと地上建物を所有しているところ、昭和三〇年ごろ、別紙図面A、D、E上にブロック塀を建設し、同時にD、C、E、Dを順次直線で結ぶ範囲の土地をコンクリート敷とし、被告方へ公道から出入りする通路を開設し、以来平穏、公然と通路として使用し、右通行は継続かつ表現のものであるから、少なくとも昭和五〇年には、右範囲の土地につき通行地役権を取得した。

3  被告と原告の母花子間には、昭和三六年以降、深刻な離婚、財産分与をめぐる紛争があり、原告は終始右花子に加担し、被告の収入源であった訴外株式会社乙山社代表取締役の地位から放逐し、それ以降もことごとに被告に対して、経済的、精神的な圧迫を加えてきた。本件請求は、経済的余力のない被告を困惑させることを狙いとし、あわせて本件土地を前記財産分与の対象からはずし、右離婚事件を有利にするために行われるものであり、その動機、目的が極めて不当であり、権利乱用として許されない。

第四抗弁に対する認否

抗弁1は否認する。占有の始期は昭和三七年一〇月八日以降であり、被告は、本件土地の名義が誰であるかを全く知らなかったから、所有の意思をもって占有することはありえず、また占有のはじめに善意、無過失だったとの主張も虚偽である。抗弁2のうち、被告が主張の土地、建物を所有し、主張の範囲の土地を公道から被告方への通路として使用していることは認めるが、その余は否認する。いまだ時効は完成していない。抗弁3は争う。原告は、本件土地を原告の経営する会社又は原告個人の駐車場として使用する目的であり、正当な権利行使をしているにすぎない。

第五証拠《省略》

理由

一  本件土地がもと東京都の所有であったことは、当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、訴外甲野花子は、昭和三七年九月二二日、東京都から、長女春子名義をもって、本件土地を代金一八〇万七〇五〇円で買受け、自ら銀行から借受けて右代金を支払ったが、登記名義は自己に受けたこと、さらに、右花子は、次女夏子の結婚資金を捻出するため、右土地を昭和四八年三月一日、代金一七〇万円で長男である原告に売り渡し、右代金を受領し、その旨の所有権移転登記を了したこと、以上が認められ(る)。《証拠判断省略》

二  本件土地の範囲、ブロック塀の設置、被告が本件土地の所有権を争っていることに関する請求の原因第二ないし四項の事実は、当事者間に争いがない。

三  よって、抗弁について検討する。

1  取得時効の援用について

たしかに、《証拠省略》によれば、被告は、昭和三〇年ごろ、本件土地のうち、別紙図面A、D、Eを直線で結んだ部分に塀をめぐらせ、同図面D、E、C、Dを直線で結ぶ部分をコンクリート敷にし、公道にいたる通路として、今日にいたるまでそれぞれ右土地部分を占有していることが認められ、証人甲野花子の証言中には、被告が公道側に塀を築造し、本件土地の占有を始めたのは、右花子が東京都から本件土地の払下を受けた昭和三七年一〇月以降である旨の供述部分があるが、《証拠省略》に徴すると、被告は、昭和二六年から同三〇年までの間、東京都新宿区議会議員をしたが、その期間中である昭和三〇年ごろ、いまだ払下手続が終了しない都有地である本件土地を塀で囲んで独占的に利用している旨新聞で攻撃されたこと、右花子が本件土地の払下げを受けた昭和三七年一〇月ごろは、すでに右花子から被告に対する離婚訴訟が提起され、花子側が被告に対する財産保全措置をとっていることが認められ、これらの経緯に照らすと、右供述部分は直ちに採用できず、他にこれを覆すに足りる証拠はない。

しかしながら、前記各証拠によると、たしかに、被告は、昭和三〇年ごろ、自らの名義をもって東京都に対し、本件土地の払下申請をしたことがあることは認められるものの、被告において、右払下げに関する契約の締結や代金の支払をしたことがなく、訴外甲野花子が本件土地の払下げを受けた後においては、その租税公課も右花子ないし原告がこれを継続して支払い、被告がこれを負担することがなかったこと、右花子が払下げを受けた昭和三七年一〇月には、花子と被告は、事実上の離婚状態にあり、被告には別に事実上の妻子があり、右花子と同居関係にはなかったこと、以上の事実が認められ、これらの事実に本件土地を占有するにいたった経緯をあわせ考えると、被告は、本件土地を所有の意思なく占有してきたものというほかはなく、右認定に反する《証拠省略》部分は採用せず、他にこれを左右する証拠はない。

そうだとすると、被告の取得時効に関する主張は、その余につき判断するまでもなく採用できない。

2  通行地役権の取得について

本件土地に隣接する被告所有にかかる主張土地、建物から公道に達する通路として、被告が本件土地のうち、別紙図面D、C、E、Dを順次直線をもって囲む部分を今日にいたるまで使用していることは、当事者間に争いがなく、被告が右通路部分を塀、コンクリート敷にて開設し、昭和三〇年ごろから右通行を開始していることは、前記のとおりであるから、右通行は継続かつ表現のものということができ、被告は、二〇年を経過した昭和五〇年ごろには、右通行部分について、通行地役権を時効取得したものというべきである。

3  権利乱用の主張について

たしかに、前記各証拠によると、被告と訴外花子との間には離婚をめぐる係争があり、特に財産分与に関する争いが深刻であって、いまだ決着がついていない状況にあること、両者間の長男である原告が右花子側に加担していることが窺われるが、さらに右証拠によると、原告は、本件土地を駐車場として利用する計画であること、被告所有の前記土地は、合計二九〇坪程の広さがあり、本件土地のうち、右通路部分を除くその余の土地は、裏庭の一部として利用されているにすぎなく、これを欠くと生活上の支障をきたす程のものではないことが認められ、これらの事実をあわせ考えると、前記事実関係から、本訴請求が権利乱用とまで評価することは相当でなく、他にこれを認めるに足る証拠はない。

四  以上のとおり、本訴請求のうち、本件土地(別紙図面A、B、C、D、Aの各点を直線で囲んだ部分)が原告の所有であることの確認、同図面A、Dの各点を直線で結ぶ線上にあるブロック塀を収去して、同図面A、B、E、D、Aの各点を直線で結んだ部分の土地の明渡を求める部分は、理由があるが、その余は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書を適用して、主文のとおり判決する。なお、仮執行の宣言は、相当でないから、これを付さない。

(裁判官 伊藤博)

<以下省略>

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